「僕が、あの日僕が、時生の車の前に出なければ、時生は死なずに済んだんだっ……」


 目を見開き、三門さんと顔を見合わせた。

 肩を震わせる多聞が続ける。


 「ごめんなさい、ごめんなさい……っ、時生が最後に母さんのこと考えた、母さん心配してるかなって。だから、時生に化けて、会いに行って」


 喉の奥がきゅっと閉まる感覚がして、次第に目頭が熱くなった。

 胸が痛い。目も鼻も。

 多聞の心の方が、私よりもずっと痛いはずだ。


 「僕の母さんは、直ぐに死んだから。だから、時生でいるうちに、母さんが、ほんとに」


 多聞は典子さんを、本当の母親のように思うようになった。

 そして、たったの三ヶ月でも多聞が典子さんと紡いだ時間は、親子の絆を結ぶのに十分すぎる時間だったのだ。