「君の名前を教えてくれるかな?」


 ひとつ頷いた彼はすっと顔をあげた。


 「……阿紫霊狐の多聞です」


 阿紫霊狐というのは妖狐の種類のひとつだと、妖の子供たちから聞いたことがある。百歳までの妖狐をそう呼ぶらしい。


 「多聞、いい名前だね」


 そう微笑んだ三門さんに、多聞は泣きそうな顔をして目を伏せた。


 「多聞。君が化けていた三田時生さんは、三か月前に亡くなっていることは知っているよね」


 顔を顰めた多聞が、項垂れるようにひとつ頷く。

 そうだ、時生さんは三か月前に山道で事故を起こし亡くなったのだ。あの晩三門さんから聞かされたのは、その事故のことだった。