くすくすと楽しげに笑う母親に、男性は目を弓なりにした。夜空を指さし「ひとつ、ふたつ」と数えてみる。
どれを数えたかなんてすぐに忘れてしまうけれど、この時間が続くのならばずっと数えていたい。
ふと胸の中にそんな感情が生まれ、はと我に返る。
「時生。さっき言ったこと、覚えてる?」
「調味料の消費期限が切れそうって、言ってたこと?」
「そうじゃなくって、夢みたいって言ったこと」
ひとつ頷いた男性。女性は空を見上げ、そして静かに目を閉じる。閉じた瞼のふちから、まるで流れ星のようにすうっと雫が流れて落ちていく。
「……時生がこの家を出て行ったとき、私、ひどい言い方をしてしまったでしょう? だから、もう帰ってこないんじゃないかって」
うん、と頷くのが精一杯だった。
「十年近く連絡も何もなくって、自業自得だって分かっていたんだけれど、心配で心配で。眠れなかった」



