三門さんはふと手を止めた。
その手に持っていた菜箸をまな板の上に置くと、体ごと私に向き直る。
「麻ちゃんがここへ来た日に、鎮守の森は隠世と現世の境目だって言ったこと覚えているかな」
ひとつ頷く。
『鎮守の森って言うんだよ。神殿や参道を囲むようにして維持されている森林でね、隠世と現世の境目の役割になっているんだよ』
揺れる木々を目の前にして、三門さんはそう言っていた。
「鎮守の森を抜けて裏の鳥居をくぐれば、そこはもう現世ではなく、妖たちが住まう幽世だ。だから、ひとりで裏の鳥居へは近付いてはいけないよ」
幽世、妖たちが住む場所。
ああ、だからなのかもしれない。初めてここを訪れたとき、鎮守の森が少し恐ろしく感じたのは。