目を弓なりにしてお礼を言った男性は、私から回覧板を受け取ると、小さく手を振って歩いていった。
「道の、途中でお会いして」
「そうなんだ、じゃあもう外に出られるくらい元気になったのか。良かった」
安心したように息を吐いた三門さんは、「ありがとう」と私に柔らかく微笑んだ。そしてふと、何かおかしなことに気が付いたように首を傾げる。
「……麻ちゃん、どこかで妖に会った?」
へ? と目を瞬かせる。
「麻ちゃんから、少しだけ妖の匂いがする」
もう一度目を瞬かせて、自分の袂を持ち上げくんくんと匂いを嗅いでみるも、洗剤の匂いしか分からなかった。そして「あ」と声をあげる。
「帰り道で……葵と、マサシさんを見かけました」
「ああ、だからかな。葵、どんな様子だった?」
幸せそうに微笑み合うふたりの背中を思い出し、思わず頬が緩む。
三門さんは私のその表情で察したらしく、柔らかい表情でひとつ頷いた。