「大丈夫……だと思う」


 自分に言い聞かせるようにそう言って人混みの中を突き進めば、青女房の屋台の前で話し込む妖の姿が見えた。

 時代劇のドラマなんかででてくる花魁が着るような着物を身にまとった女の妖。髪にはまるで宝石のように輝く簪が挿されていた。

 葵の手をきゅっと握って一歩踏み出す。


 「あ、あの」


 気の強そうな釣り目に真っ赤な紅を引いた顔“だけ”が近寄ってきた。

 首がゴムのようにみるみる伸びていき、少し離れた所に立っていた私たちの前でとまる。

 黒い目が細められて、唇の端がくいっと持ち上がる。


 「なんだい、小娘」


 ひっ、と悲鳴をあげそうになるのをぐっとこらえた。