「なに?」
俺たちは教室を出て人気がない階段下へと移動した。別に話だけならあの場でもよかったけど、「渡したいものがある」と言うから、仕方なく。
「まだ怒ってるよね……。本当にごめん」
怒ってるもなにも俺は海月に嫌がらせしたことを許すつもりはない。
実はこいつとは夜遊び仲間で、女友達のひとりだった。『私と付き合おうよ』と言われたのも初めてではなかったし、本気というよりは流れという感じだった。
それでも気を持たせると面倒な性格だということはなんとなく分かっていたから『付き合う気はない』とはっきりと断った。
……きっとそれが嫌がらせの引き金になってしまったんだと思う。
「謝る相手が違うだろ」
引きずって海月の元に連れていってもいいけど、そんなことあいつは望んでない。
「で、渡したいものってなに?」
苛立ったように聞くと、女子は後ろ手からなにかを差し出してきた。
「……あの時、慌てて持って帰っちゃったの」
それは、薄水色のポーチだった。