「……はあ」


騒がしい教室で、一際目立つ自分のため息。『お菓子食べる?』なんて集まってくる女子をことごとくスルーして、俺は木枯らしが吹く外の景色を見つめていた。


「朝からため息つくなよ。五回目だぞ」

スマホをいじってる沢木が呆れた顔をしている。


「いちいち数えるなよ」

俺が六回目のため息をはいたところで、沢木が「お前、まじなの?」と主語もなにもないことを聞いてきた。


「なにが?」

「冴えないほうの岸さんにまじなの?」


海月と俺が夜一緒に歩いてたという噂は半信半疑のまま、あまり拡大することもなく消えた。

でも俺が海月のことを目で追ってることは俺の傍にいる友達なら普通に気づくだろうし、行動を共にすることが多い沢木なら尚更に。


「……冴えないは余計だよ」

俺がぼそりと言い返したところで、誰かに肩を叩かれた。


「悠真、ちょっといいかな」

気まずそうに声をかけてきたのは他のクラスの女子で、球技大会の日に海月のカバンを漁っていたひとりだった。