「……向こうってお前の名字知ってる?」
「さあ、知らないんじゃない。みんなには下の名前で呼ばれてるし、聞かれない限りフルネームなんて名乗る時代じゃないよ」
たぶん、海月はまだ気づいてない。俺に弟がいることは知ってるけど、なにも尋ねてこなかったし。
でも、色々とタイミングが良すぎて俺が仕組んだと思われないか?
ただでさえ弟は年を誤魔化してやってるし、俺があいつと接点を持つために弟を送りこんだって……。
いや、そこまでは思わねーよな……いやいや、でも可能性は0じゃない。やっと打ち解けはじめてるっていうのに、こんな理由で引かれたら立ち直れない。
「三鶴。お前、海月から名字聞かれるまで名乗るなよ」
弟は俺の言動を見てなにかを察したようだ。
「もしかして岸さんと兄ちゃんって同じ学校?」
「まあな」
「そう、だったんだ……」
なんだか急に歯切れが悪くなって、俺は兄としての勘を働かせる。
「まさかお前、海月のこと……」
「違う違う!ただこの前ちょっと様子が変だったから」
「変って?」
弟は考えるように無言になったけど、「でも大丈夫って言ってたし、そのあとは普通だったから俺の思い過ごしかも」と、勝手に話を完結させてしまった。