一気に美味しく食べたケーキが喉まで上がってくる。


吐きたくない。

吐いたら楽になることは分かってるけど、吐きたくない。



「……っ」

結局私は我慢しきれずに、吐いた。


涙で吐き出したものは見えなかったけど、空っぽになってしまったお腹が寂しくて。

佐原と食べたケーキが無駄になってしまったことが、悔しくて。


吐いたら嘘みたいに体調が落ち着いた。

薬の副作用、脳腫瘍の症状。吐き気はよくある。珍しいことじゃない。

でも……。


誰かに病気だということを忘れるなって言われてる気がした。



私は立ち上がって、涙を拭く。


今日佐原に無視されてモヤッとしたことも。

私のために怒ってくれて胸がぎゅっとしたことも。



『いいんだよ。俺は海月といたい』


割りきれなかった鼓動の速さも。


私はぜんぶ、吐き出したものと一緒にトイレに流す。



手の消毒をしてバイトに戻った頃には、溜まっていたお皿を全て洗い終えて、もう口の中から甘い味はしなかった。