「これから10人のお客さんが来るから溜まってるそば皿とどんぶりを優先して洗ってもらえる?」
「わかりました」
……10人か。会社関係の団体かな。
私がバイトをはじめた頃よりもお店は賑わっている。
味の良さと清子さんや将之さんの人柄に惹かれて常連客になる人も増えてきたし、口コミで評判がいいから来てみたと一見さんも多い。
早く洗わなきゃ。私は年内で辞めるから、せめてそのあともたくさんお客が来てくれるようにミスはしたくない。
「……う」
と、その時。急に気持ち悪くなって私は洗っていた皿を置いた。
「大丈夫ですか?」
異変に気づいて駆け寄ってきたのは、食べ終わった食器を運んできた三鶴くんだった。
「平気、う……っ」
「いや、平気じゃないですよ。俺、皿洗い代わりますから岸さんは休んで……」
「い、いい。表も人が足らないでしょ。早く行って」
「でも」
「大丈夫だから、お願い」
強く言い返すと、三鶴くんは「分かりました。でもまた見に来ます」と言って仕事に戻っていった。
ジャアアという蛇口の音。騒がしく店に入ってきた団体客の声。
頭がグラグラして、私はたまらずにトイレへと駆け込んだ。