「このまま早退して一緒に甘いもんでも食おう。なにがいい?パフェ?クレープ?それともパンケーキ?いいよ、なんでも」

「な、なに言ってるの?行かないよ。佐原は終わったあと打ち上げもあるでしょ。あんたがいなかったらみんな……」


「いいんだよ。俺は海月といたい」


今まで幾度となく逸らしてきた佐原の瞳。

初めてまっすぐに目を見て、なんて綺麗なんだろうと、逸らしたくてもできなくなった。


「行こう」

佐原が優しく私の手を引く。




ねえ、ズルいのは私のほうかもしれない。



〝佐原と一緒にはいられない〟
〝きみを巻き込みたくない〟
〝これ以上は、ダメ〟


そうやって喉まで出かかっている言葉がいくつもあるのに、私はなにひとつ言わないまま歩いてる。



心臓って、胸にあるんじゃなかったっけ。


掴まれている手が熱くて、ドクンドクンって、ものすごく脈を打ってる。



早く静まって。じゃないとバレる。 



――『あいつが傷つかないと思ってんの?』


泣きそうになったこと。今も、我慢してること。
 


なんで佐原はそうやって、私がどこかに置いてきた感情を簡単に拾ってきてしまうのだろうか。