「え、ゆ、悠真っ」

教室の中の様子はここからじゃ見えないけど、慌てた女子の声はここまでしっかりと届いてきた。


「そこ海月の席だろ?なにしてんのって聞いてんだけど」

佐原の声がいつもより低い。 


「な、なにしてるって別になにも。ね?」

「うんうん。うちらはただ友達に頼まれたものを取りにきただけで……」

「それであいつのカバンを漁ってんの?おかしいだろ」


どうやら女子たちの傍にあった私のカバンに佐原も気づいたようだ。


「っていうか、なんで悠真があの子のことを庇うの?最近、みんなで夜遊びしててもどこか上の空だし、悠真は変わったって影で言われてるよ。それってあの子に構うようになってからでしょ?」

言い逃れできない状況に、開き直るようにして女子は言う。



「悠真が仲良くしてきた女子と全然タイプが違うし、そんなに気にするほどの子でもないじゃん」

「それであいつに嫌がらせしてんの?」

「したって別にあの子は怒らないでしょ。むしろ感情あるのってぐらいいつも真顔だし」


「だからって、あいつが傷つかないと思ってんの?」


佐原の言葉に私は自然と手を握りしめていた。



女子たちの言うとおり、私はこのぐらいじゃ怒らないし、表情も滅多に動かない。

だから、佐原が現れなければ女子たちと鉢合わせしないようにやり過ごして、教室に入ろうと思ってた。


そう、思えるぐらい冷静だった。なのに……。



「またこういうこと影でしてたらまじで許さねーから」


佐原が真剣に怖いくらい怒っているから、また分別できない感情が生まれてしまっただけ。