「ねえ」

背後から声がして顔を上げると、鏡に美波が映っていた。美波は私の手元を確認するように洗っているジャージを見つめる。


「それ、やった犯人知ってるよ。教えてほしい?」

「……べつに」

私は再び栓がしてある洗面所の中の水をじゃぶじゃぶと動かした。


「あんた目つけられてるよ。佐原くんを狙ってる女子から」


上履きとジャージを捨てた人が同一人物かは分からないけど、おそらく佐原と親交のある誰かということは分かっていた。

でも正直、被害者なのにさほど犯人に興味はない。知ったところでどうするわけでもないし、上履きだって拾いにいけばいいし、ジャージだって洗えばそれで済むことだ。

 
……でも、意外だ。

私のことに関して、絶対に首を突っ込んでこない美波が自らこんなことを言ってくるなんて。



「……心配してくれてるの?」

「まさか。忠告してんの。あんたが妬まれて家でも付けられたら私とのことがバレるでしょ?」


そうだろうと大方予想はしていたけど。


「平気。別に佐原とはなんにもないから」


そう、別に私たちは妬まれるような関係ではない。


……あの日だけ。あの瞬間だけ、繋がったものはあったけれど、本当にそれだけ。


それ以上のことはないし、これからもそうだ。