……ガタッ。

と、その時。私しかいないはずの図書室で物音がして、同時に聞こえてきた「いてっ」という声。

そんな短い言葉で、誰だか分かってしまうなんて、いつの間にかその声を耳で覚えてしまっている。


「あれ、海月じゃん」

奥の本棚から歩いてきた佐原は、分厚い本を抱えて頭を押さえていた。


なんで、こんなにもタイミングよく現れるんだろう。私はまた気持ちを乱されるのが嫌で、視線を窓の外に移した。


「なんかさ、寝返りしたらこれ落ちてきて直撃したんだけど、文句って誰に言えばいいの?」

なのに、佐原は私の心情なんてお構い無しに近寄ってくる。


そもそも、どうやったら図書室で寝返りをするほど寝られるんだろうか。本棚の間には通路があるから、もしかしたらそこにいたのかな。……全然気づかなかった。


「ねえ、ちょっとここたんこぶできてない?」

すると、サラサラした髪の毛が私の頬をかすめた。

佐原はぶつかった箇所を確認してほしそうに頭を低く傾けている。その距離の近さに私は身体ごとあからさまに背けた。


「……わ、私に近づかないで!」

とっさに出た言葉は静かな図書室に大きく響いた。