今までだって、平坦な人生じゃなかった。


父親が誰だか分からないのに私は生まれて、誰からも祝福されずに母とふたりで暮らして、その母にも捨てられて、私は息を潜めて自分の家ではない場所に住んでいる。


自分の運命を呪うよりも、直感で誰かに呼ばれているんじゃないかって。

私は望まれた存在じゃなかったから、早く死んでまた別のなにかになるために手招きされてるんじゃないかって。


そんな風に思っている内に雨が降ってきて、その雨粒の感覚も分からないまま私は当てもなく歩いた。

そこで、出逢ったひとりの男の子。


目が合って、こんなずぶ濡れな私なんて無視して行ってしまえばいいのに、『なにやってんの?』って慌てたように傘を傾けてきて……。


その些細な優しさがひどく身に沁みて、別に怖くなんてないのに、別にビックリしただけで、私の人生を考えればこういう結末もありなんじゃないかって、思っていたのに。


『ねえ、朝まで一緒にいてよ』

三か月後にはいない私が、一瞬の弱さで佐原を巻き込んでしまった。


だから、後悔してる。

私のことなんて忘れてくれていいのに、関わってこようとする佐原を手招きしてしまったのは、きっと私。


誰にも言わない。

病気のことも余命のことも、誰かに言う必要はない。


私はあと三か月で死ぬ。

あの日よりは受け入れられているはずなのに、佐原と会うと何故か心が乱されてしまう。