学校に着いた俺は机の周りに集まってくるクラスメイトたちを無視して、スマホを見つめていた。
せっかく意を決して送ったメッセージの返事はこない。それどころか既読もつかないし、なんのためにスマホ持ってんだよって、行き場のない八つ当たりを心で繰り返す。
「ねえ、なんでそんな険しい顔してんの?」
「犬のふんでも踏んだんじゃね?」
ちげーよ、バカ。
いまいち雰囲気に乗れない俺をみんな不思議がってたけど、結局チャイムが鳴り響くまでの間、周りはずっと下らない話で騒いでいた。
うちの学校は一学年でクラスが六つに分かれていて、俺は六組で海月は一組。つまり廊下での距離は端と端。
隣同士で組むことがある体育は合同にはならないし、学年集会で集められても近隣の列にはならない。
しかも階ごとにはふたつのトイレがあって、六組は右側、一組は左側を使ったほうが早いから教室の前を通りすぎる機会もない。
「お、岸さん可愛い」
ホームルームが終わり、わずかな時間。前の席である沢木(さわき)が窓の外を覗いていた。
岸という名前に過剰なぐらい反応してしまった俺は一緒になって中庭に目を向ける。が、そこにいたのは同じ岸でもあいつと同じクラスの美波のほうだった。