それから担当医の先生や晴江さんたちにお願いして、私は1日だけ外出することになった。それは余命と言われた三か月を過ぎた2月初めのこと。


まともに歩くことが困難になっていたけれど、なんとか今日の日までに足を慣らし、痛み止めの薬を何種類も出してもらった。


「大丈夫?」

「うん。思ったより足の感覚はあるかな」


お互いに洋服を何枚も重ね着して私たちは夜のバス停にいた。


空には無数の星が浮かんでいて、呼吸をするたびに白い息が空へと溶けていく。


そのうち、ライトの付いたバスが私たちの前に停車した。


高速バス・犬吠埼(いぬぼうさき)行き。四列シートの最後尾に向かい、佐原は私を窓側に座らせてくれた。


プシューとドアが閉まり、バスはゆっくりと発進する。直行便で目的地まで約四時間半の旅。

スマホの時計を確認すると、時刻は深夜0時をとっくに過ぎていた。



「バス、けっこう空(す)いてるね」

最前列に乗客が数人いただけで、車内はほぼ貸し切り状態だった。


「まあ、時季が時季だからな。たぶんあっち相当寒いよ」

「平気。お腹と背中にカイロ貼ってあるから」


私がそう言うと佐原はにこりと笑ってカバンから温かい飲み物を取り出した。それは、バス停に着く前にコンビニで買ったふたつのホットレモン。

一口飲むと、じわりと甘酸っぱい味が広がって私はクスリと笑った。


「ん?」

そんな私を佐原は不思議そうに見ていた。