それから数日が経って、学校では三学期が始まっていた。私はもちろん行くことはできないけれど、佐原は学校が終わるとすぐに病院まで来てくれる。
私の病室の窓からちょうど正面玄関が見えて、歩道の脇に植えてある常緑樹(じょうりょくじゅ)の道を佐原はいつも走っている。
それで息を整えながらここまで来て、乱れた髪の毛をそのままにノックもしないで病室のドアを開けるのは毎日のこと。
「よう」
そして走ってきたことを隠すように平然と挨拶をするのだ。
佐原は自分の姿が見えていることに気づいてないし、私も言わない。きっとこれからも。
だって、急いでここまで来てくれる佐原の姿を、私だけが独り占めできるから。
「寒かったでしょ?」
「平気平気。むしろ今日の体育は外でドッジボールだったから」
「えーそうなの?」
「信じられないよな。グラウンド霜だらけだったし」
黒いマフラーを外し、コートを脱いだ佐原はわざと私の頬を両手で挟む。
「冷たい?」
「うん。でもひんやりしてて気持ちいい」
こういうやり取りも最近はいつもしてる気がする。佐原はそのまま椅子に座り、限界までベッドへと近づけた。