「もう、泣きすぎ」と言いながら美波も泣いて。そんな私たちを見て晴江さんは同じハンカチで同じように涙を拭いてくれた。
「化粧がぐちゃぐちゃになってどこにも行けなくなったから、今日はずっとここにいるから」
不器用に言う美波に、私はクスリと笑う。
「うん。いいよ」
私は誰かの迷惑になることが嫌だった。
私は望まれて生まれてきたわけじゃないと思っていたから、せめて当たり障りがないように影を薄くして過ごしてた。そうすれば、ここにいることを少しは許してもらえる気がしてたから。
でもそれは違ったよ。
人に迷惑をかけないで生きるなんてできるはずがないように、ひとりきりでやってきたと思っていても、そう思いたかっただけで、私は色んな人たちに助けられていたんだ。
私に残された時間は短い。でも今までのことを取り戻すのではなく、今から一緒に作っていけるものが、きっとある。
「じゃあ、シュークリームでも食べましょう。ふたりは紅茶でいい?」
そう言って晴江さんが立ち上がった。
「あ、私、冷たいのがいい。氷入れてね」
「だからすぐにお腹壊すのよ」
「えー関係ないよ」
ふたりのやり取りを微笑ましく見ていると、晴江さんの視線が私へと向いた。
「海月は?温かいのと冷たいのどっちがいい?」
まだ家族と呼ぶには歪だけど、いつか家族の話をした時に私はこの人たちを思い浮かべたい。
「じゃあ、私も美波と一緒で冷たいの」
敬語が崩れた瞬間――私の中にあったしこりは、もう綺麗になくなっていた。