「昔から姉さんと比べられては私のほうが成績も運動も劣っていた。でも褒められても姉さんは嬉しそうにしない。私は褒められたくて頑張ってたのに、姉さんは私が欲しかったものを手に入れても笑ったりはしない人だった」
そして晴江さんは自分のカバンの中に手を入れた。
そこから手帳を取り出してページを開き、挟んであった一枚の写真を私に見せる。
「でも、あなたを抱いている姉さんの顔は笑っているでしょう?」
たしかに、そこには私の頭の片隅にいた母が写っていた。でも、その顔つきはずいぶんと若くて、六年前で止まっている面影とは一致しない。
「……この赤ちゃんって私ですか?」
「そうよ。どこの病院で産んで、どこに住んでるかも教えてくれなかったけど、出産した報告だけはしてくれてね。その時に送られてきた手紙の中にこの写真が入っていたのよ」
私はおそるおそる晴江さんの手から写真を受け取った。
自分だなんて信じられないくらい生まれたての赤ちゃんが母の胸に抱かれて、安心したように眠っている。
毛質が細くて髪の毛はふわふわしてて、まつ毛も長い。佐原の言っていたとおり耳も口も手も全部小さくて透明みたいに肌が白い私の姿だ。
……誰に撮ってもらったんだろう。産婦人科の先生かな。
こんなにも穏やかで柔らかな表情をした母を私は初めて見た。