「六年間、私をあの家に置いてくださりありがとうございました」
 

私は丁寧に頭を下げた。晴江さんの驚いた表情を見て私は「言っておかないと後悔すると思ったので」と言葉を付け加える。


「……あなたにとってはツラいだけの六年間だったんじゃない?」

晴江さんがぽつりと呟いた。


「振り返ればそうかもしれません。でもそれは晴江さんたちになにかをされていたからじゃなくて、自分でツラいと思うほうを選んでいたような気がします」
 

そうやって冷静に考えられるまで、ずいぶんと時間が経ってしまった。

晴江さんは暫く黙っていたあとに、記憶の糸を手繰り寄せるようにそっと唇を動かした。



「……私、姉さんのことが嫌いだったのよ」


姉さん。つまり私の母のことについて晴江さんは語りはじめた。