――『俺の寿命を半分やる。だから死ぬな。俺を置いて死なないで……海月』
あの日。私は佐原が泣いた顔を初めて見た。
佐原は出逢った頃から飄々(ひょうひょう)としてるイメージで。私のネガティブな感情ごと吹き飛ばしてしまう強さがあった。
でも流れゆく時間の速さも、迫りくる命の期限も、一緒に迎えられるか分からない明日も、佐原は私と同じように怖さを感じていた。
佐原の本当の気持ちを知って、私は不謹慎かもしれないけど、すごく安心したし、嬉しかった。
今まで佐原と違うところばかりに目を向けていたけれど、初めて一緒だなって思えて。
弱さを隠さない、涙は我慢しない。苦しい時は苦しいと、寂しい時は寂しいと、会いたい時は会いたいと素直に言うことをお互いに決めた。
だからだろうか。
私は今が一番佐原との距離を近くに感じている。
「ネックレス、今日もしてくれてるんだ」
チェーンを掬い上げるようにして、佐原が私の首元を触った。
「毎日つけてるよ。絶対に外さない」
ネックレスを握りしめると、離れていても佐原から抱きしめてもらっているような感覚になって、私は落ち着くことができる。
今回の入院で私はもう自分が退院できないことを悟った。
手術をするわけでもなく、強い薬を身体に入れるわけでもなく、気休めにしか効かない痛みや吐き気を止める薬しか飲めずに根本的な治療はできない。だから外に出ればまた倒れてしまうことは分かってる。
病院はやることがなくて退屈だけど、それでも1日でも長く生きるために、私はこの病院で最後を迎える決断をした。