そして窓の外から見える空が暗くなりはじめた頃。再び病室のドアが開いて、バイト終わりの佐原がやってきた。



「うう、さみい」

肩をすぼめながら入ってきた佐原の髪の毛にはうっすらと白い雪が乗っていた。


「また降ってきたの?」

「うん。駅を降りてすぐ」

佐原は頭を左右に振って雪を払っていて、その姿が犬みたいで可愛かった。


「今日の体調は?」

「朝ごはんと夕ごはんは残した。でもお昼に三鶴くんが持ってきてくれた蕎麦は全部食べたよ」

「そっか」
 

私の病室に通うことが日課になっている佐原はいつものようにベッドの横にある椅子に腰かけた。


「手、赤くなってるよ」

よく見ると佐原の手は霜焼けのようになっていて、可哀想なぐらい冷えきっていた。
 

「ああ、バイト中も軍手とかしてないから」

「ちょっと貸して」
 

私は佐原の手を取って、自分の両手で包んだ。ずっと室内にいる私と外にいた佐原の体温は全然違っていて、なんとか熱が佐原に移るように私は何度も手を擦る。


「海月の手は暖かいな」

佐原が柔らかく微笑んだ。