「ちょっと悠真聞いてる?」
俺の様子を見て女子は膨れっ面をしていた。
「ああ、聞いてる。聞いてるけど今は少し黙ってて」
「えーなにそれ。ひどくない?」
海月がこうやって分かりやすい女だったら楽だったのに。
自分で言うのもおかしいけど、今まで女に困ったことは一度もない。可愛い子は俺から声をかけなくても寄ってきたし、ふたりで遊びにいったり、関係を深めたりすることも容易かった。
そんな中で気が合う女子とは何人か付き合ったこともあるし、弄んでやろうなんて考えは微塵もなくて、普通に健全な付き合い方はしてたと思う。
でもデートをしたり、楽しく遊んだりすることはできても、触れたいと思ったことは何故か一度もなかった。
――『ねえ、朝まで一緒にいてよ』
あの日、海月に遭遇したのは本当に偶然で、男友達の家に漫画を借りにいった帰り道だった。
雨の中傘も差さずに濡れているヤツがいて。絶対ヤバいだろって。目とか合わせないほうがいいなって、漠然と通り過ぎようとしていた俺は、やっぱり彼女に目を奪われてしまった。
普通に慌てた。
顔は青白くて、まるで魂が抜けたみたいにフラフラしてて。
俺が一方的に気になってただけで話したことなんてなかったのに、『なにやってんの?』って自然と海月に傘を傾けていた。