「たしか幼稚園の頃の写真は何枚かあった記憶があるんだ。ほら、遠足とかの集合写真とか。でも、それ以前の母とふたりきりだった時間の写真は一枚もなかった」


その瞳は寂しそうだった。きっと海月にとって母親という存在はとても大きなものだったんだと思う。


「俺は海月の赤ちゃんの頃を想像できるよ」

「……え?」


「毛質が細いからたぶん髪の毛はふわふわしてて、まつ毛が長くて耳も口も手も小さくて透明みたいに肌が白い。今と同じようにすげえ可愛かったと思うよ」


俺だったら、愛しくてたまらない。


海月の母親がどんな理由で海月のことを置いていったのかは分からない。

一番近くにいてほしかった人が離れていってしまった苦しみは計り知れないし、過去に戻って海月が孤独に感じていた時間を埋めることはできない。


でも俺はそういう日々を耐えてくれた海月に感謝してる。


だって、そうじゃなきゃ俺たちは出逢えなかったから。



「ありがとう」


瞳を潤ませながら笑う海月の頭を俺は優しく撫でた。