「私、あの子のこと苦手だったし、嫌いだって思ったこともあるけど、病気で死ぬかもしれないなんて考えたことは一度もなかった」
岸は怒っているような、悔しいような表情をしたあとに、ぽつりと胸の内を話してくれた。
「あの子はどうせ行くところなんてないんだろうし、なんだかんだ言いながらあの家で一緒に暮らして、もう少しお互いに大人になって、お酒でも飲めるようになったら、話せることがあるんじゃないかって思ってた」
「……岸」
「なのに、なんで病気なのよ。余命ってなんなのよ。そんなの信じられるわけないじゃない……」
岸の震えた声を聞いて、俺まで想いが込み上げてきた。
「それ、俺じゃなくて海月に言ってやって」
解決してあげたくてもできなかったこと。海月の心のしこりは、俺では取り除けない。
でも岸のこの気持ちを知ればきっと海月は、泣いて喜ぶと思うんだ。