バイトを始めた理由はいくつかある。
いつまでも遊び呆けていられないと思ったのと、海月が働いている時になにもしてない自分が嫌だったのと、あともうひとつ。
〝あの透明なケース〟を見ていた綺麗な横顔が忘れられなかったから。
バイト終わりに俺は急いである場所に向かい、欲しいものを無事に買うことができた。
売り切れていたらどうしようって心配だったけど、まるで俺を待っていたかのようにあの日のままで置かれていて安心した。
俺は海月に明日の待ち合わせ時間を含めたメッセージを送りながら帰りの電車に乗っていた。そして最寄り駅に到着して、改札を抜けた瞬間に、見知った顔と目が合った。
また逃げられると思ったけど、向こうも俺と鉢合わせしたことに驚いている様子で動作が鈍かったから、そのまま強引に横に並んだ。
「遊びの帰り?」
「関係ないでしょ」
〝岸〟はあからさまに不機嫌になった。なんだか出逢った頃の海月を見ているような感覚だ。
「……あの子とこれから会うの?」
岸はあえて海月の名前を出さないようにしてる気がした。
「いや、今日はもう家に帰るよ」
気温がずいぶんと下がってきてるし、免疫力がただでさえ弱っている海月を無闇に出歩かせたくない。
「そんな悠長でいいの?あの子、死ぬんでしょ」
その言い方が気になって俺は岸に鋭い視線を向けた。