「予定どおり、最後の日までバイトは行こうと思ってます」

ちゃんとお礼も言いたいし、辞めると言った日まではやり通したいという気持ちが強い。


「分かった。その代わり無理はしないでなにかあったらすぐに連絡しなさい」


晴江さんは淡々と言いながら、ルーティンのように冷蔵庫を開けて晩ごはんの献立を考えるように食材を確かめた。


「……あの」

いつもなら話が終わればすぐに二階に行く私は、まだリビングに留まったまま。


「着替えとか学校への連絡とか、色々とありがとうございました」


入院はしたくないと言った私の意見を晴江さんは聞き入れてくれた。 晴江さんはなにかを言いかけるように私のことを見たけれど、結局なにも言われなかった。



私はそのままバイトに向かう時間まで部屋にいることにした。

ずっと窮屈に感じていた部屋は病室よりも狭いのに、不思議と安心している自分がいる。


私はベッドに横になり、見慣れた天井を見つめた。 


六年前にこの家に来た時、ここは空き部屋になっていて物はひとつも置かれていなかった。

だから私も必要なものだけを揃えて無駄なものは一切買わないようにと心がけていたのに、やっぱり六年も使っているとすべての物に愛着はある。


勉強机も本棚もベッドもクッションも、思えば全部晴江さんや忠彦さんが買ってくれたものだし、私は頼りたくないなんて口では言っていても、頼りながら生活していたように思う。



【海月のことだからバイトに行くんだろ?帰り迎えに行くから】


ポケットで鳴っていたスマホを確認すると、佐原からメッセージが届いていた。


佐原は私の性格を知っているから、動かずに安静にしてろ、とは言わない。きっと晴江さんもそう。


言ったところで頑固な私が折れないことを分かっているから、バイトのことに関して口を出してきたりはしない。


そうやってお互いに分かってることがあるはずなのに、どうしたって躊躇してしまう言葉がたくさんあって、私は本音で話せるタイミングをずっと探してる。