それから数日が過ぎて、私は病院を退院した。本当はこのまま入院していたほうがいいと言われたけれど、私はなるべく通常どおりの生活をして過ごしたかったので家に帰る選択をした。


「学校にはちゃんと説明しておいたから」

病院まで迎えにきてくれた晴江さんの車で帰り、約1週間ぶりのリビングはとても久しぶりな気分がした。


晴江さんは私の病気を知ったあと、忠彦さんと相談して色々な手続きをしてくれた。

他の生徒たちには秘密にする約束で脳腫瘍だということも話し、学校側は回復する願いも込めて休学という形を取ってくれた。



「バイト先の人たちはあなたのことをどこまで知ってるの?」

「病気のことは言ってません。でも今月いっぱいで辞めるということはすでに伝えてあります」

「……どうするの?」


私が入院している間、代わりに三鶴くんがたくさんのシフトを入れてくれたと、佐原から聞いた。

本来の予定ではあと四回ほどバイトに行くことになっていて、今日も短い時間だけど夕方から入っている。


退院することは事前に電話で清子さんに言った。清子さんは私が倒れた原因を深くは聞かずに本当に心配してくれていて、将之さんと一緒にお見舞いにも来てくれる予定だったようだ。


本当のことを言えば、もちろんバイトどころではないと、すぐに辞める方向に話がいくだろう。 


でも家に帰ることも学校に行くことも憂鬱だった私が、バイトだけはそう感じたことが一度もなく、あのお蕎麦屋は私にとって大切な居場所だった。