『好きだよ。アップルパイとか無限に食えるもん』
「はは、そうなんだ」
佐原らしいと和みつつ、私は夜空に浮かんでいる月を見上げた。けれど、残念ながら雲が多くてなにも見えなかった。
『どうした?』
傍にいないのに、佐原はすぐに私の変化に気づく。
「佐原……私、頑張るよ」
その言葉を言った瞬間、右目から一筋の涙が流れた。
今日の検査で、私は先生からこんなことを言われた。
『現在の腫瘍の大きさはりんごぐらいです。いつ破裂してもおかしくない。この状態で動作や言語に支障がないのは非常に稀なことで、生きていることも奇跡に近いです』
もしかしたら、私のタイムリミットなんてもうとっくに過ぎているんじゃないのかな。
だけど、このままじゃ死ねない理由がありすぎて、神様がほんの少しだけ先伸ばしにしてくれているんじゃないかって、今日1日ずっとずっと、考えてた。
『今すぐ、そっちに行ってやろうか』
佐原の冗談ではない、真剣な声が聞こえた。
「ダメだよ。怒られる」
『関係ねーよ、そんなの』
私が一言〝来て〟と言ったら佐原はすぐに飛んでくるだろう。
どこにいても地球の裏側にいたって、絶対にきみは私をひとりにはしない。
「じゃあ、今度、私を遠くに連れていって」
本当はすごく会いたいけれど、今日の約束をしてしまったら、今日だけで終わってしまう。
だから、タイムリミットが過ぎていても、明日のことさえ不確かでも、私は先の約束をする。
『いいよ。海月が行きたい場所ならどこにだって行こう』
「ありがとう、佐原」
きみが私の生きる未来を信じて疑わないように、私も絶対に諦めたりなんてしないから。