――ブーブーブー。

と、その時。テレビ台に置いてあるスマホが振動していた。ステンレスの上で鳴っていたバイブ音はかなり響いていて、私は慌ててスマホを取る。


画面には【着信 佐原】の文字。


「はい」

私はドアのほうを気にしながら電話に出た。


『お、やっぱり起きてた』

小声で話す私とは違い、佐原の周りは騒がしかった。雑音から推測すると、おそらく駅のホーム。


「バイト帰り?」

時計を確認すると、針は23時になろうとしていた。


『バイトは時間どおりに終わったんだけど、そのあとの不良品のチェックが長引いてさ』

「終電、間に合ってよかったね」

『間に合わなかったら初めてタクシー乗ろうと思ってたけど、普通に電車があってむしろガッカリだよ』

耳元から聞こえる佐原の明るい声に自然と安心した。


『そっちは就寝過ぎてるだろ?見廻りって何時くらいに来んの?』

「人によって違うけど、だいたい12時過ぎ。だからまだ喋れるよ」

『よかった』


佐原と会えないだけで今日は1日がすごく長く感じた。

思えば二か月前まではなんの接点もなくて、大勢いる同級生のひとりだったのに、佐原は今、私にとってかけがえのない人になっている。



「ねえ、佐原ってりんご好き?」

『なんだよ、急に』

「んーなんとなく」


私は寝ていた身体を起こしてベッドから出た。そしてスリッパを履いて窓際に移動して、閉まっていたカーテンをそっと開ける。