「海月と岸の家族のことはあんまり口出すことじゃないって黙ってた。でも俺は海月の心にしこりがあるままじゃ嫌だし、ちゃんと話すべきなんじゃないかって本当は思ってる」

「……佐原」


「それに、やっぱり家に帰ってひとりで苦しんでると思うと気が気じゃないし、この先こうやって海月が俺の知らない場所で倒れた時に、お前の状況を知ってる人がいないことがすげえ怖いんだよ」


佐原の声が震えていた。



私は、あの家と家族からずっと逃げてた。

だからなにも告げずにいなくなろうと。荷物を整理して、今まで家にいさせてくれた感謝の手紙だけを置いて去ろうと思ってた。


でもそれは大切な人がいなかった、ひとりの時の考え。


今はそんな無鉄砲なことは不可能だって思ってるし、死にたい気持ちより生きたい気持ちのほうが強いから、自分じゃどうにもならない時には誰かに頼らなきゃいけないと思ってる。

その誰かが、今は佐原だけ。


それが怖いと言う彼のためにも、ずっと消えないことが当たり前だと思ってたこのしこりを消すためにも、私は決断しなきゃいけない。


今まで向き合ってこなかったこと。

本当は、どうしたかったのか。 

あの人たちと、どうなりたかったのか。


言えなかったことが山ほどあって、それは死ぬかもしれないと思い浮かんだ、佐原への後悔と同じ。



「……佐原もここにいてくれる?」

ひとりじゃ勇気が出ないことも、佐原がいてくれたら私は大丈夫な気がする。



「当たり前だろ。海月の言葉でゆっくり話せばいいよ」

佐原にそう言われて、臆病だった自分がスッと消えていく感覚がした。