倒れる前に感じた痛み。

今まで経験したことがないぐらいの激痛だった。



覚悟はしていても、まだ先のことのように思えていた死という言葉が頭に過った。


きっとああやって激しい痛みとともに意識がなくなり、そのまま目覚めない可能性だって十分にあった。

いつ命が終わっても不思議じゃない。私はもうその領域にいて、ギリギリのところで息をしてるんだと、今は怖いくらい実感してる。
 


「ねえ、佐原」


死ぬかもしれないと思って、佐原の顔ばかりを思い出して、どれだけきみが大切か改めて気づかされた。

だから後悔しないように、言いたいことは言っておかなきゃと声を出すと、何故か佐原が急に深刻そうな表情を見せた。



「ど、どうしたの?」

「実は今、岸たちがこっちに向かってる」

「……え?」


一瞬で私の思考が切り替わった。



「バイトで倒れたあと、店の人がお前の家に連絡したらしい。たぶん貧血って理由じゃ通らないと思う」


たしかに美波たちがくれば、私がここに通院していたことが看護師の説明でバレてしまう。そしてきっと病気のことも隠し通すことはできない。


家に連絡したってことは、美波だけじゃなく晴江さんも来るだろうし、もしかしたら忠彦さんだって。


考えただけで、バクバクと心臓が激しく上下していた。




「どうする?」


私の不安を拭うように佐原が優しく問いかける。



「逃げる?それとも隠すことをやめる?」



……隠すことをやめる。


そんなこと、今まで考えたことはなかった。