別に俺じゃなくてもよかったんだと思う。

たまたま。タイミング的に。

あの夜を過ごした理由は、そんなちっぽけなものだったのかもしれない。


でも、俺でよかった。

誰でもよかったんだとしても、他のヤツじゃなくてよかった。



駅のロータリーは夜のほうが騒がしい。コンビニもあるし、バッティングセンターもすぐ傍だし、カラオケとゲーセンがくっついてるレジャー施設は目と鼻の先。

同じクラスの友達と三時間歌いまくって、喉はガラガラだし、ドリンクバーを何回往復したっけってぐらい飲み物も飲んだけど、誰ひとりと帰る気配はない。

そして、俺もスマホを見ながら噴水の周りを囲んでいる石段に腰かけていた。



【行かない。寝るから】

愛想の欠片もないメッセージを見て俺は深いため息をはく。



岸海月を一言で表すなら、媚びない女。



自分をよく見せようと声色を変える女たちとは違い、あいつは誰に対しても冷めている。

だけど人とぶつかれば謝るし、自分の靴箱の前にゴミが置いてあったら捨てにいくし、先生の頼みごとも断らない。まあ、全部不機嫌そうな顔はしてるけど。