次に目を開けると、私は知らない部屋にいた。不規則に並ぶ天井の黒い模様は家でもバイト先でもない。
真新しい匂いがするシーツと、ベッドを支えている鉄パイプ。そして鼻をかすめる薬品の香りに、私はここが病院だと気づいた。
「海月」
名前を呼ばれて視線をずらすと、そこには心配そうに眉を下げる佐原がいた。
「……佐、原……?」
まだ意識が朦朧としていて、状況が分からない。
「三鶴から連絡もらったんだ。海月が倒れたあと店の人が救急車を呼んでくれてここに運ばれたんだよ。ちなみにお前が通ってる隣町の大学病院……」
佐原の言葉が言い終わる前に、私はベッドから起き上がって、そのまま子どもみたいに抱きついた。
「え、み、海月?」
動揺してる佐原とは真逆に、私はさらに力を入れる。
「佐原……よかった。もう会えないかもしれないって思った」
途切れた意識の中でも私はずっと佐原の名前を呼んでいた気がする。
「会えるよ。もし海月がどこかに行きかけても俺が絶対に連れ戻すから」
そう言ってくれた佐原はきっと三鶴くんからの連絡で飛んできてくれたに違いない。それで、片時も離れずに私の側にいてくれたのだろう。
「……バイト、迷惑かけちゃったかも」
お皿洗いも途中だったし、救急車が店の前に停まったら近所の人だって集まってきてしまったはずだ。
「大丈夫だよ。今は自分の心配して」
佐原は私の身体を楽な体勢へと戻してくれた。