「分かった。ありがとう。教えてくれて」


送別会なんて、わざわざいいのにって思うけど、私のために計画してくれている気持ちが嬉しい。三鶴くんはニコリと笑ってホールへと歩き進める。

私もお皿洗いを再開させようと蛇口をひねった、その時。


ズキンッと、激しい頭の痛みに襲われた。


まるでハンマーで叩かれているみたいな頭痛に耐えきれずに、私はその場に座り込む。



……なに、これ。


頭痛はいつものことだし、痛みにも慣れているはずなのに、こんな頭が割れそうな感覚は初めてだ。



「……岸、さん?」


私の異変に気づいた三鶴くんの足音が戻ってくる。でも今は顔を上げる余裕もなくて、痛みとともに頭がグラグラと揺れていて、目を開いているのに視界が真っ白だ。


怖い、なにこれ、なんなの。



「大丈夫ですか?岸さん!」


傍にいるはずの三鶴くんの声がやけに遠くに聞こえる。ズルッと力が抜けた私は、そのまま冷たいコンクリートの上に倒れた。



「岸さん、岸さん……っ!!」


薄れていく意識の中で、佐原の顔がまぶたの裏に浮かんだ。




『俺は、海月が好きだ』

あの言葉が、どれだけ嬉しかったかきみは知ってる?



『逃げないよ』

あの言葉に、どれだけ救われたかきみは知ってる?



『海月』

きみが呼んでくれる名前に、どれだけ心が跳ねたかきみは知らないでしょう?




このまま、佐原に会えなくなっちゃったらどうしよう。


なにも伝えないまま、離れ離れになっちゃったらどうしよう。




佐原、佐原、佐原――っ。