それから夕方になり、私は佐原と別れてバイトに向かった。暖簾をくぐり中に入ると、店内はびっくりするほど賑わっていた。
「あ、海月ちゃん。お皿かなり溜まってるからすぐに準備して洗ってくれる?」
清子さんは忙しそうにお蕎麦を運んでいて、厨房では将之さんも次から次へと入る注文に追われていた。
「は、はい。すぐに洗います!」
私はローカールームに行き、腰巻きのエプロンをきゅっと結ぶ。急いで自分の持ち場に向かうと、たしかに洗い物がたっぷりと積み上げられていた。
「今日、地域の子供会だったらしいですよ」
と、その時、私よりも早くバイトに入っていた三鶴くんが後ろを通りかかった。
たしか子供会ってこの近くにある公民館でやってるって聞いたことがあるし、店内の客のほとんどがお母さんと子どもだったのはその理由だろう。
「珍しいですよね。店からきゃーとかわーとか奇声が聞こえてくるのは」
「いつもサラリーマンが多いからね」
子どもは声質が高くて苦手意識があったけど、今は微笑ましく感じることができている。
きっとそれは佐原のおかげ。佐原が心にいるから私は気持ちを乱さないで落ち着いていられるんだと思う。