「海月ちゃん、お疲れさま。帰り気を付けてね」 

「はい。お疲れさまでした」


清子さんに見送られてバイトが終わったのは9時だった。

たまにお蕎麦を食べて帰ることもあるけど、今日はまだ団体客がいて珍しく混んでいたし、昼食もろくに食べてないのに全然お腹がすいてない。


日に日に体重は減っていくし、冷たい風が吹くたびに肺が痛くなるけど、星が綺麗だなと見上げる余裕はまだある。


……あの、星座はなんだっけ。

カシオペア座?ペルセウス座?小学校の頃に習った勉強はすっかり忘れてしまっていた。


――ブーブー。

と、その時。ポケットの中のスマホが振動していた。



【着信 佐原】と表示されてる電話を私はじっと見てるだけ。


なかなか切れない電話をこっちから切ってやろうと思ってた頃に着信はようやく止まり、代わりにメッセージが送られてきた。

 

【今家?】


家かどうかなんて、佐原になんの関係があるんだろうか。シカトしようとスマホをポケットに入れかけたところで二通目のメッセージ。



【シカトしたらまた電話するぞ】


……こわ。ストーカー?


どこからか見られてる気がして後ろを確認したけど、いたのは自転車に乗ったおじさんだけだった。



【なんか用?】

電話がかかってくる前に短く文章を打った。



【俺、今駅前にいるんだけど、出てこない?ロータリーの噴水のところにいる】


危ない。少し遠回りして帰ろうと駅前に行くところだった。



【行かない。寝るから】

素っ気なく返事をすると、佐原からのメッセージの返信は来なかった。



ああ、頭が痛い。熱っぽい。


これは風邪でも寒さのせいでもないけど、やっぱりまっすぐ家に帰る気にはなれなくて亀のように遅いスピードで、名前も分からない星座を見ながら歩いた。