「そんなすぐに否定しなくてもいいだろ」
俺はガキみたいにふて腐れていた。
「……苦手なの。ああいうやり取り自体」
たしかに海月は恋愛話に花を咲かせるタイプではない。でも少しは冗談でも「えー」とか照れてくれたほうが俺は嬉しかったのに。
「家に帰ってなかったの?」
海月は話題を変えるように、俺の制服を見た。
「途中で友達に会ってそのままバッティングセンターにいた」
「そうなんだ」
俺はもちろんその場に岸がいたことは言わなかった。
「晩めしは家で食うの?」
「いつもはバイト先で済ませたりコンビニで買ったりするけど、今日はお腹が空いてないから別にいいかなって」
「じゃあ、家に帰って風呂に入って寝るだけ?」
「うん。……あんまり帰りたい気分じゃないけどね」
岸に譲れない考えがあるように、海月にも譲れない考えがある。だからすれ違ってしまうし、その溝は簡単に埋まることはない。
そんな複雑な環境で過ごしてきた海月にとって、家は一番憂鬱を感じてしまう場所でもあるんだと思う。
「帰りたくないなら、少し寄り道してく?」
海月の病気のことを考えれば、あまり寒空の下を出歩かせないほうがいいことも、身体を休ませることが最善だということは分かってる。
でも、帰りたくないという海月に早く帰りなよ、と言うこともできなかった。
「海月が疲れてなければの話だけど」
「疲れてない。だから……少し、行く」
海月は不器用にそう言った。