三鶴くんとはロッカールームで入れ違いになったことは何回かあったけど、こうして同じ時間帯で顔を合わせたのは初めてだった。


「岸さんって年内で辞めるんですよね?暇そうだから面接受けたんですけど、けっこう仕事きつかったりしますか?」


前髪は瞳に隠れるくらい長いし、いつもイヤホンをつけて音楽を聞いているから勝手に私と同じで会話が苦手な人だと思ってたけど、どうやら違うらしい。


「……きつくないよ。みんな優しいよ」

私は洗い物を再開させて、ぼそりと答えた。


「岸さんって高校生ですよね?なに中出身ですか?」

「……北」

「北ってけっこうガラ悪くなかったです?俺、南中なんですけど極力近づかないようにしてますよ」

ん?なんか今ものすごく引っ掛かった言葉があった。


「え、三鶴くんって中学生?」

「はい。歳誤魔化して面接受けたんで、内緒にしてください」


そんなあっさりと私に秘密を打ち明けてしまっていいんだろうか。中学生と言われるとたしかにあどけない顔をしてる気もしなくはない。


「騙すの悪いなって思ってますけど、ゲームとか色々欲しいものが多くて。うち小遣い制なんで」

三鶴くんの家庭事情を聞いたところで、「注文お願い」と清子さんが呼びにきて、彼はお客さんの元へと向かった。


……あんなにペラペラ喋る人だと思わなかった。

そういえば中学生って法律で働いてはいけない決まりになってなかったっけ。

それって歳を誤魔化してる三鶴くんが悪いんじゃなくて、雇っている将之さんたちが責められたりするのかな。

優しい人たちだから迷惑はかけてほしくないけど事を荒立てるつもりもないので、さっきの話は聞かなかったことにしようと思った。