電車に乗って最寄り駅に着いた頃には、空の色が薄暗くなりはじめていた。
「バイト、きつくないの?」
こんな状態でバイトどころではないのが普通なのに、海月は今日もバイトに行く。きっと、家に居づらいというのも理由のひとつなんだと思う。
「身体を動かしてるほうが不思議と症状は少ないよ。逆に家にいるほうがツラい時が多いし」
そんな時は決まって部屋でひとりで耐えるのだろう。同じ家に岸たちがいるのに、そこには簡単には頼れない距離がある。
それは家族というものが当たり前のようにある俺には分からないこと。
「……病気のこと、三鶴くんにも言わないでね」
誰にもバレたくない。それが海月の強い意思。
「でも、あいつちょっと気づいてるよ」
三鶴は海月のことを〝戦ってる人〟だと言ってた。海月が一見、強い人に見えるのはそのせいだと思う。