海月はそのあと20分ほどで診察室から出てきた。再びエレベーターで一階に下りて、薬を貰うためにまたロビーの待ち合い室に座る。


一階は人の出入りが多くて、入院患者以外にも外来や見舞い客の姿もたくさんあった。

車椅子に乗ってる人、お腹が大きい人、マスクをしてる子ども。それぞれがここにいる理由は違うけど、きっと薬待ちをしてる海月を見ても死が近いなんて誰も思わない。

俺もそう。隣に座っていても、海月がいなくなってしまうことなんて微塵も考えられない。


「あそこ」

「え……?」

そんな中で、海月がある場所を指さした。



「あのcloseって看板がある場所。日曜日にだけやってるパン屋なの」

向かいのコンビニは営業してるのに、たしかにあの一角だけシャッターが閉められていた。


「あんまり日曜日に来ることないから閉まってることのほうが多いんだけど、前に一回だけ買ったことがあって。その時食べたメロンパンの味に今日似てた。佐原が買ってきてくれたやつ」


海月はそう言って、にこりとした。

きっとこれは俺にしか見せない表情で嬉しいはずなのに、いちいち胸が苦しくなってしまう。


「学校のパンなら日曜じゃなくても買える。海月が食べたいなら毎日買い占めてくるよ」

「カレーうどんも、いつか食べたい」

「うん。めちゃくちゃ旨いからビックリするよ」

「蕎麦はダメなのに、うどんは平気なんだね」


そんな会話をしていると海月の順番になり受付で薬を受け取ったあと、俺たちは病院を出た。