ここで働きはじめたのは高校に入学したすぐのことで、もうすぐ半年になる。


時給は駅前のファミレスのほうが高いけれど、人が多い場所は苦手だし、コミュニケーションを取るのも苦手だから、静かに営業してるこの店でバイトできてることはラッキーだと思ってる。

人と話すのが得意じゃない私の性格を分かってくれてるから、無理に接客はさせられないし、お皿を洗ってくれるだけで助かるとふたりは言ってくれている。


居心地もいいし、まかないで出してくれるお蕎麦は美味しいからできればずっと働かせてほしいと思ってたけど、先日年内で辞めさせてくださいとお願いしたばかり。

『勉強が忙しいの?』と、清子さんに聞かれたけれど、私は詳しい理由を言わなかった。


あと三か月。ううん、もっと短いかもしれない。

実感も心残りもなにひとつないけれど、雷に打たれたように告げられた衝撃を思い出すと、息がうまく吸えなくなる。



「顔色悪いですね」

気配もなく声をかけられて、思わず手に持っていたコップを落としそうになってしまった。


「洗い物お願いします。今日はこれから団体が来るらしいですよ。ほら、たまに来る酔っぱらいのおじさん。あの人が部下を引き連れて来るとかなんとか」


物静かなのに淡々と喋るこの男の子は最近アルバイトとしてやってきた。


たしか三鶴(みつる)という名前。人の名前を覚えるのは得意じゃないけど、縁起が良さそうな名前だなって思ったから頭にインプットされてる。