じわりじわりと胸が熱くなって、後ろに倒れてしまいそうな衝撃に、逆らってる。



「……こんな気持ちになったのは初めてで、自分でも戸惑ってるけど、あの日お互いのことをなにも知らずに身体だけが繋がって。〝ありがとう〟って海月が泣いた理由も分からずに虚しくなるのは、もう嫌だ」


そう言いながら、佐原は私の頬に触れた。



「本当はあの時、苦しいって言いたかったんじゃねーの?助けてくれって言いたかったんじゃないのかよ」


佐原の声が震えていて、どうしたってその瞳を逸らすことなんてできなかった。



「ああだこうだって、一緒にいられない理由を見つけるより、ああしようこうしていこうって、俺と一緒にいる理由を海月は探せない?」

「………」


「俺はお前と距離なんか感じたくない。間にある壁だって跡形もないぐらい壊すから、本当の心を見せてほしい」


ふわりと佐原の匂いがしたあと、私は強く抱きしめられた。それは痛いくらい、強く強く。





「俺は、海月が好きだ」


耳元で言われた言葉に、ぽろぽろと涙が流れた。


ずっと我慢していたもの、閉じ込めていたことが一気に溢れ出す。私は佐原の背中に手を回した。



きみをこっち側に引き込んではいけないと抗いながらも、きっともうとっくに手遅れで。

わざと散らばしていた佐原への想いの欠片が徐々に集まってくる。



きみに、言わなくちゃ。

私がずっと秘密にしておきたかったことで、一番残酷なことを。





「佐原、私、病気なの」


好きだって、ここで言えたらよかった。

本当は私もだって、言えたらよかったのに……。



「私……もう、長くないの」


佐原とずっと一緒にいたいけど、そうできない。


いつ死んでもいいと思っていたのに、こんなにも生きたいと思ったのは、初めてだった。