私は時々、佐原といると苦しくなる。
きっと、私が経験しなかったこと、手に入れたかったものを、佐原がぜんぶ持っているからだ。
かと言って、佐原が私と同じ境遇だったらとか、家族にも恵まれずにひとりぼっちだったらとか、そんな風に思ったことは一度もない。
でも、違いすぎるからこそ、惹かれてはいけないと思ってる。
きみの世界を乱したくない。壊したくない。
だって私は、佐原が思うよりずっとずっと重いから。
「……俺、海月といてもその間にすげえ頑丈な壁みたいのを感じてて。それを無理やりよじ登っていいのか、それとも壁の向こう側でお前が許可してくれるのを待てばいいのか迷ってた」
佐原がゆっくりとした口調で胸の内を話はじめた。
「今日、あっちに行けって言われたの、だいぶ堪えた。明らかに様子がおかしい海月に大丈夫かって心配することも、寄り添うことも許されないのかって情けなくなったし。いつまで経っても平行線で、海月はこのままずっと俺に心なんて開いてくれないんじゃないかって、今日1日モヤモヤしながら過ごしてた」
佐原は私がなにを言っても、なにをしても動じなくて、いつも私の知ってる佐原のままで接してくれていたけれど……本当は、傷ついていたし、悩んでいた。
私は佐原の心の広さに、甘えていただけだ。
「でも、俺」
佐原が足を止めた。一歩先に出てしまった私は身体を傾けて彼の顔を見る。
「どう考えても、お前のことが好きなんだよ」
まっすぐに言われた言葉は、冷えた空気よりも先に私の身体の中へと入った。