結局、私が落とした小鉢は少しだけ欠けてしまった。そのことも何度も謝ったけれど佐原のお母さんは笑って許してくれて、三鶴くんも新しいしゃぶしゃぶを私に盛ってくれた。
そして、帰り道。私は佐原に送ってもらうことになり、ふたりで夜空の下を歩いていた。
「悪かったな、色々」
佐原は白い息をはきながら、首元に巻いているマフラーを口元まで上げる。
「なんで佐原が謝るの?」
同様に私も寒そうに両手を擦った。
「母さんに飯誘われて戸惑わせたり……あと三鶴のことも黙っててごめん」
「驚いたけど、大丈夫だよ」
ふたりが兄弟だったからと言ってなにか不都合があるわけではないし、三鶴くんとはバイト仲間として残りの期間も接していくことに変わりはない。
「ねえ、佐原」
11月も中旬になり、あと1か月もすれば二学期が終わる。
もっとゆっくりとしたスピードで時間が過ぎていくと思っていたのに、最近はすごく早く感じる。
ひとりで過ごす1日と、心に誰かがいる1日がこんなに違うなんて思わなかった。
「私、佐原のお母さんや三鶴くんや家の中の雰囲気を見ると、佐原が優しいのも暖かいのもまっすぐなのも当たり前だなって思うんだ」
愛情をくれる家族がいて、喧嘩ができる兄弟がいて、笑い合える友達がいる。
佐原はそういう光ある場所が似合うから、愛されるのも人が集まってくるのも当然だと思う。「だから……」と、言いかけて私の唇が止まる。
佐原は私が言葉を選んでいることが分かったのだろう。
「だから、海月とは違う?」
言いかけたことを、佐原が代わりに言った。