「……す、すいません……っ!」

ダイニングテーブルの一部が汚れてしまい、ポタポタと出汁が床にまで飛び散っていた。



「海月ちゃん、火傷してない!?」

佐原のお母さんが慌てて駆け寄ってきてくれた。



「火傷はしてないです。でもしゃぶしゃぶが……」

「いいのよ。そんなの。あ、スカートに少し飛んでるわね。三鶴、早く濡らした布巾持ってきて。あとタオルも」

「うん、わかった」


急にバタバタと慌ただしくなってしまったリビング。私は唇をぎゅっと噛み締めて申し訳なさで顔が上げられない。

すると、宥めるように誰かが私の頭を撫でた。



「母さんはテーブルを拭いて。海月は俺が見るから」

それは佐原だった。



「本当に火傷してない?」
  

私の手を確認するように佐原が触る。痺れている指先が何故か楽になって、触ってくれた箇所から感覚が戻っていく。



「手が滑ることなんて誰でもあるよ。だから全然気にすることはない」


佐原の言葉は、胸にじんと突き刺さった。


きみに嘘をついていることが、きみに嘘をついてまで隠していることが、たまらなく嫌になった。