それから四人でお鍋を囲み、私もゆっくりと食べはじめた。佐原の家の食卓は二回目だけど、それぞれの会話を聞いていると本当に仲良しなんだなって分かる。
佐原のお母さんは自分が食べるよりも子どもたちのことを優先して、菜箸(さえばし)の動きを止めないし。
佐原と三鶴くんは年齢がひとつしか変わらないから譲り合うことはせずにお肉を取り合って喧嘩をしている。
暖かくて、柔らかで、佐原が育ってきた環境は眩しい。たぶんこれがごく普通の家族の形なんだろう。
私の知らないもの。経験したことがないものが、この家にはたくさん溢れてる。
「海月ちゃん、食べてる?」
佐原のお母さんがぼんやりとしていた私に気づいた。
「え、はい。いただいてます。美味しいです」
しゃぶしゃぶなんて食べたのは本当に久しぶりで、最初に盛ってもらった分はすべて食べきっていた。
「じゃあ、もっとたくさん食べて」と、佐原のお母さんが私の小鉢を手に取る。「自分でやります」と申し出たけれど、「いいのよ」と、二回目のしゃぶしゃぶを盛ってもらった。
「残してもいいよ。俺がぜんぶ食うから」
そんな中でも、佐原は食の細い私のことを気にしてくれる。
「大丈夫だよ」
そう答えたあと、「はい」と佐原のお母さんが小鉢を差し出してくれたので受けとるために私は手を伸ばした。
でも、次の瞬間に再びビリビリとした鈍い感覚が襲ってきて、ガシャンッと、盛られた具材ごと小鉢を落としてしまった。