「そんなに慌てて帰ってこなくてもお肉はなくならないわよ」
なにも知らない佐原のお母さんはその様子を見て笑っていた。「制服脱いで手を洗ってきなさい」と続けて言うお母さんを無視して、佐原は私の隣に座る。
和やかなリビングなのに、私たちには妙な緊張感があった。
きっと、私から話さなきゃいけない気がする。
でもなんて?
ぐるぐると考えていると、三鶴くんがむぎ茶を飲みながら佐原に言った。
「岸さん、母さんに無理やり連れてこられちゃったみたいだよ」
……今日は三鶴くんにフォローされっぱなしだ。すると、佐原は大きなため息をはいた。
「俺さ、今日昼飯食ってないんだよね。誰かさんを誘ったんだけど返信が来なかったから勝手にふて腐れて昼休みの間はずっと寝てた」
たぶんこれは三鶴くんにじゃなくて、私に言ってる。
「……ごめん」
私は消えそうな声で呟いた。
「だから俺はめちゃくちゃ腹減ってるから海月が母さんに誘われたからって譲り合ったりしねーからな」
そう言って佐原はしゃぶしゃぶを食べはじめる。
自分の都合で佐原を一方的に遠ざけたのに、あえて普通に接してくれてる佐原はやっぱり嫌になるくらい優しい人だ。